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大阪地方裁判所 平成6年(行ウ)40号 判決 1998年3月12日

原告

藤永延代

右訴訟代理人弁護士

梅田章二

坂本団

河原林昌樹

武田純

被告

大阪府知事山田勇

右訴訟代理人弁護士

宇佐美明夫

森戸一男

上原理子

上原健嗣

被告指定代理人

田中忠

外一〇名

主文

一  被告が原告に対して平成五年一一月二日付けでした公文書の非公開決定処分のうち、別紙(一)の内申書中の第一次指名審査会に係る分の「等級」欄の「等級」・「評点」及び第二次指名審査会に係る分の「ランク」欄をいずれも非公開とした部分、並びに別紙(二)の予定価格調書を非公開とした部分をいずれも取り消す。

二  被告が原告に対して平成五年一一月四日付けでした公文書の部分公開決定処分のうち、別紙(三)の入札参加資格者審査調書中の「等級」部分を非公開とした部分を取り消す。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、大阪府内の肩書住所地に居住する者であり、被告は、大阪府知事である。

2  原告は、平成五年一〇月一九日、大阪府公文書公開等条例(昭和五九年三月二八日大阪府条例第二号、以下「本件条例」という。)七条一項に基づき、本件条例の実施機関である被告に対し、別紙(一)の内申書(以下「本件内申書」という。)及び別紙(二)の予定価格調書(以下「本件予定価格調書」という。)等の公文書の公開を請求した(以下「(一)公開請求」という。)。

原告は、同月二一日、右同様に、被告に対し、別紙(三)の入札参加資格者審査調書(以下「本件審査調書」という。)の公開を請求した(以下「(二)公開請求」という。)。

3  本件内申書、本件予定価格調書及び本件審査調書は、いずれも本件条例二条一項所定の「公文書」に該当する。

4  被告は、(一)公開請求につき、平成五年一一月二日、本件内申書について本件条例八条一号、四号、五号に該当するとの理由で、本件予定価格調書について本件条例八条五号に該当するとの理由で、それぞれ非公開とする旨の決定(以下「(一)処分」という。)をし、本件条例一二条三項及び四項により、原告にその旨を通知した。

また、被告は、同月四日、(二)公開請求につき、本件審査調書中の「評点」、「等級」及び「総合数値」の各部分について本件条例八条一号に該当するとの理由で非公開とし、その余の部分についてはこれを公開する旨の部分公開決定(以下「(二)処分」という。)をし、原告にその旨通知した。

5  原告は、平成五年一二月三日、被告に対し、(一)処分及び(二)処分につき異議申立てをしたが、被告は、大阪府公文書公開審査会への諮問、同審査会の答申を経て、平成六年三月二五日、(一)処分のうち本件内申書中の第一次指名審査会に係る分の「等級」欄の「等級」及び「評点」並びに第二次指名審査会に係る分の「ランク」欄以外の各部分を非公開とした部分を取り消し、その余の(一)処分及び(二)処分についての異議申立てを棄却する旨の決定をし、同月二六日、右各結果を原告に通知した。

6  しかし、(一)処分のうち本件内申書中の第一次指名審査会に係る分の「等級」欄の「等級」及び「評点」、並びに第二次指名審査会に係る分の「ランク」欄と本件予定価格調書を非公開とした部分、(二)処分のうち本件審査調書の「等級」を非公開とした部分は、いずれも本件条例所定の非公開事由がないのにされた違法な処分である。

7  よって、原告は、被告に対し、(一)処分及び(二)処分のうち、右6のとおり非公開とした部分をいずれも取り消すことを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし5の事実は認める。

2  同6は争う。

三  被告の主張

1  本件条例八条は、公開しないことができる情報として、「法人(国及び地方公共団体その他の公共団体(以下「国等」という。)を除く。)その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公にすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの(人の生命、身体若しくは健康に対し危害を及ぼすおそれのある事業活動又は人の財産若しくは生活に対し重大な影響を及ぼす違法な若しくは著しく不当な事業活動に関する情報を除く。)」(一号)、「府の機関又は国等の機関が行う調査研究、企画、調整等に関する情報であって、公にすることにより、当該又は同種の調査研究、企画、調整等を公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」(四号)、「府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、交渉、渉外、争訟等の事務に関する情報であって、公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」(五号)を規定している。

2  本件内申書について

(一) 本件内申書は、いずれも平成二年度から平成四年度までの間に大阪府企業局が発注した南大阪湾岸埋立工事、阪南丘陵土砂採取工事(以下「本件工事」という。)について、指名競争入札に参加する指名業者を選定するための大阪府企業局指名審査会の会議の審議資料として、本件工事を所管する課長が作成した各建設業者に関する内申書八件である。大阪府企業局指名審査会は、大阪府企業局幹部職員で構成(会長は同局長)され、同局が指名競争入札により発注する建設工事について、指名競争入札の参加資格をもつ業者のうち審査の対象となる業者が所定の指名基準に適合するか否かを多角的かつ総合的に審議するため設置されたもので、この指名審査会において指名基準に適合する旨の決議のあった建設業者が、発注部局の長による決済を経て指名業者に選定される。本件工事については、いずれも共同企業体方式による入札が行われ、各工事ごとに、共同企業体の構成員となる建設業者の指名審査を行う第一次指名審査会と、第一次指名審査会の指名を受けて申請された共同企業体の指名審査を行う第二次指名審査会がそれぞれ開かれた。本件内申書は、本件工事について、指名競争入札参加資格をもつ建設業者の中から指名基準を勘案して、本件工事に応じた建設業者を選定して、本件工事や選定した建設業者に関する事項を記載した文書であり、第一次指名審査会に係る分の「等級」欄の「等級」及び「評点」の部分には、選定された建設業者の大阪府建設工事入札参加資格者審査調書の「等級」及び「評点」の記載が、第二次指名審査会に係る分の「ランク」の欄には右審査調書の「等級」の記載がそれぞれ転記されている。

(二) そうすると、右の「等級」、「評点」及び「ランク」の各部分に記載された情報は、後記のとおり、本件審査調書の「等級」及び「評点」欄に記載された情報と同様、本件条例八条一号に該当する情報である。

(三) また、本件内申書は、本件工事の指名競争入札参加業者を選定するに際し、大阪府の機関である指名審査会において、審査の対象となる建設業者が指名基準に適合するかどうかを審議するための資料であり、これに記載された情報は、調査研究、企画、調整に関する情報と同様に意思形成過程において作成、使用されたものであるから、そのうち、前記の「等級」、「評点」及び「ランク」の記載を公開すると、指名審査会の多角的かつ総合的な審査過程における審議の具体的内容が明らかになり、事柄の性質上、今後同種の審議を公正かつ適切に行うことに著しい支障が生じ、更に、今後、大阪府が行なう公共工事の入札に際し、建設業者の協力を得るのが困難になり、同種の審議や入札事務を公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼす。

したがって、本件内申書の「等級」、「評点」及び「ランク」の各部分に記載された情報は、本件条例八条四号、五号に該当する。

3  本件予定価格調書について

(一) 本件予定価格調書は、本件工事に係る指名競争入札に際し、当該入札における落札可能金額の範囲を定めるために、入札の実施に先立って大阪府企業局において発注者によって作成された文書であり、工事名称、入札年月日、工事予定価格、最低制限価格及び設計金額の具体的表示が記録されている。

そして、「設計金額」の欄には、工事発注者が、公共工事の標準的な施工方法を基準として、標準的な施工能力を有する建設業者が、それぞれの現場条件に応じて当該工事を行った場合に最も妥当性があると考えられる経費を積算した合計金額が記載されている。この金額は、建設省の「土木請負工事工事費積算要領」に基づき、建設省が公表する「土木工事工事費積算基準」、「共通仮設費算定基準」、「土木工事標準歩掛」、発注工事ごとに被告が公表する設計書(工事単価を伏せて工種ごとの工事数量が明示されている。)及び工種ごとの工事単価(公表されない。)に基づいて積算される。

「工事予定価格」の欄には、入札の際の落札上限額である工事予定価格が記載されている。工事予定価格は、設計金額と極めて接近しているが、工事予定価格の漏洩を防止するため設計金額とは差異を設けて設定される。

「最低制限価格」の欄には、入札の際の落札下限額である最低制限価格が記載されている。最低制限価格は、建設業者間の過当競争やダンピングによって工事原価も確保できないような低額の契約が締結され、そのために疎漏工事が行われることを未然に防止するために設けられる。

(二) 工事予定価格を公開すると、それが当該入札後であっても、今後の同種の工事の入札において、参加する建設業者にとって、既に公表されている同種の工事の入札金額や落札金額、その他公表されている資料と右の工事予定価格を照合することによって、その工事の工事予定価格をかなり正確に推知することが可能になる。そうすると、将来の同種の工事の入札において、入札参加業者は、推知した工事予定価格にとらわれて、独自の真剣な見積り努力をしなくなり、また、建設業者間の談合を誘発するおそれが大きく、ひいては、工事予定価格よりわずかに低い金額で落札されることが常態となる事態を招き、入札参加業者の公正な自由競争を通じて形成される工事予定価格の制限の範囲内における最低価格で契約するという競争入札制度の目的を阻害するおそれがある。

最低制限価格を公開すると、それが当該入札後であっても、工事予定価格の場合と同様、今後の同種の工事における最低制限価格をかなり正確に推知することが可能になり、工事予定価格を公開した場合と同様に、競争入札制度の趣旨である建設業者間の自由で公正な競争が阻害されるとともに、ダンピングによる一部有力業者への受注の偏りや、下請業者に対するしわ寄せを招き、疎漏工事が行われるおそれがある。

また、工事予定価格と最低制限価格は、いずれも設計金額を基準として、工種、施工条件、工事の難易度、工期等当該工事の内容を配慮して算出され、三者相互に密接な関連性を有している。したがって、これらのうちの一つでも公開すると、それが入札後であっても、各入札参加業者は、今後の同種の工事におけるこれらの価格等をかなり正確に推知することが可能になり、前同様の弊害が生じるから、今後の大阪府の建設工事の入札事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすことが明らかである。

そうすると、本件予定価格調書に記載された情報は、いずれも、本件条例八条五号に該当する。

4  本件審査調書について

(一) 本件審査調書は、大阪府が行なう指名競争入札を実施するに当たり競争入札参加者を公正に選定するための基礎資料として作成された文書で、平成五年度の建設工事入札参加資格を受けた各建設業者について、その概要及び建設工事入札参加資格審査の結果が記載されている。

本件審査調書のうち、「総合数値」の部分には建設業法に基づいて指定経営状況分析機関の分析を経て算定された各建設業者の経営規模、経営状況等に関する経営事項審査の総合数値が、「評点」の部分には総合評点が、「等級」の部分には、特定の種類の工事についての指名競争入札の際に発注する工事の規模に応じて建設業者を選定・指名するために総合評点に基づいて便宜上付されたABC等で表示された格付が、それぞれ記載されている。右の総合評点は、経営事項審査の右総合数値に二分の一を乗じて算出された客観的評点(ただし、その数値が九〇〇点を超えるときは九〇〇点とする。)と当該建設業者の過去の大阪府発注工事の成績や大阪府下に本店が所在するか否かなどの地元要素、健康保険、厚生年金保険、労災保険、雇用保険等の加入の有無などの労働福祉の状況について大阪府が一〇〇点満点で数値化して算定した主観的評点の合計である。

大阪府においては、この「評点」の評価対象や配点方法、「等級」の設け方等について建設業者の有するノウハウ、創造力、仕事の丁寧さ、アフターサービスなどの要素は主観的評点算出の対象とはしていない。

(二) 本件審査調書の「等級」の部分に記載された格付及び「評点」の部分に記載された総合評点の情報は、その性質自体から、当該建設業者の名誉や信用に関するものであり、その基準となる総合評点は、客観的評点の低い業者ほど主観的評点の占める割合が大きくなり、その高低によって大きく影響を受けることになり、各建設業者の客観的、一般的な評価とは異なる。したがって、これを公開すると、これらの情報が建設業者の客観的、一般的な業者の優劣を示す能力評価と誤解され、建設業者、とりわけ主観的評点が低いため低く格付けされた業者の信用を低下させ、それらの建設業者に社会的活動や事業活動の面で不利益を与えることが十分予測される。

したがって、本件審査調書の「等級」の部分に記載された情報は、本件条例八条一号に該当する。

5  右のとおり、本件内申書中の前記の「等級」欄の「評点」の部分及び「ランク」の欄、本件予定価格調書、及び本件審査調書中の「等級」欄には、本件条例の定める非公開事由に当たる情報が記載されている。したがって、(一)処分及び(二)処分のうち右の各部分を非公開とした部分は適法である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1の事実は認める。

2  同2の(一)は認め、(二)(三)は争う。

3  同3の(一)は認め、(二)は争う。

4  同4の(一)は認め、(二)は争う。

五  原告の反論

1  本件内申書について

本件内申書の「等級」及びランクの欄に記載された情報を公開したとしても、後記のとおり、建設業者の「競争上の地位その他正当な利益」を害することはなく、また、大阪府の事務の遂行上、建設業者の協力が得られなくなることもあり得ない。また、後記のとおり、これらの情報は公開の必要性が高い。

2  本件予定価格調書について

(一) 土木構造物や建築物は生産条件が多様であって、自然条件、社会条件等の違いにより工事に要する費用が異なる上、一品ごとの注文生産方式がとられ、工事の施工に伴って経費の変動が避けられない。予定価格が公開されても、今後の入札における予定価格を推知することは困難である。また、地方公共団体において、頻繁に同種工事が続くことはほとんどないから、当該入札から相当の期間経過した後に予定価格を公開したとしても、今後の予定価格が推知される弊害は生じない。

(二) 談合による入札参加業者の受注調整に対する厳格な規制があれば、予定価格が公開されても、入札による公正な自由競争が損なわれることはない。

(三) 工事予定価格が合理的根拠に基づいて適正に算出されている限り、仮に入札参加業者間に受注調整行為があったとしても、落札価格を不当に高額につり上げることによる大阪府の財政上の損失は生じない。

また、最低制限価格は、業者間の過当競争やダンピングを防止するために設けられた落札の最低価格であるから、その性質上、これを公開したからといって、競争が阻害されたり、ダンピング受注を生じたりすることはない。

(四) 工事予定価格や最低制限価格が適正に設定されているかどうか、指名業者間の価格調整によって工事予定価格直下での落札が行なわれていないかを検証するためには、これらの情報を公開する必要性が極めて高い。

3  本件審査調書について

(一) 地方自治体が資格審査により格付を行う目的は、当該公共工事の規模に応じた経営状況・施工能力を有する建設業者に公共工事を受注させるためである。経営状況に問題があり、施工能力の低い業者が高い施工能力を要する大規模な公共工事を受注したり、逆に、施工能力の高い業者が小規模な公共工事まで独占するのを防止するためである。したがって、このような資格審査手続による格付の結果である「等級」は、建設業者の経営状況や工事施工能力の客観的評価とかけ離れたものではあり得ない。

(二) 等級は、事業活動上の機密事項や生産技術上の秘密に属する情報とは異なり、これが公開されたからといって、直に当該建設業者の競争上の地位が具体的に侵害されるものではない。等級は、建設業者についての客観的、一般的評価と異なるものではないから、これを公開することによって、格付の低位の、すなわち施工能力の低い建設業者が大規模な工事を受注できなかったとしても、各建設業者の施工能力や経営状況に応じた差異としてやむを得ない。

(三) 等級の基礎となる主観的評点の評価対象になる事項については、判断者の裁量の余地が広く、建設業者と癒着して恣意的な評価がされるおそれがあり、客観的評点についても、建設業者の虚偽の申告に基づく杜撰な内容である可能性もあり、いずれにしても、この情報を公開して、それが適正か否かを広く検証する必要がある。

理由

一  請求原因1ないし5の事実、被告の主張1の事実、同2(一)、3(一)及び4(一)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  住民に公的な情報に対する開示請求権を付与するか否か、いかなる限度で、どのような要件の下で付与するかについては、いずれも当該地方公共団体における立法政策の問題であり、具体的な情報公開請求権の内容、範囲等は、それぞれの地方公共団体の条例の定めるところによる、というべきである。

大阪府における本件条例においては、本件条例は、公文書の公開等に関し必要な事項を定め、公文書の公開を求める権利を明らかにすることにより、府民の府政への参加をより一層推進し、府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民の福祉の増進に寄与することを目的とする(一条)、実施機関は、公文書の公開を求める権利が十分に保障されるように、この条例を解釈し、運用するとともに、公文書の適切な保存と迅速な検索に資するための公文書の管理体制の整備を図らなければならない旨定められた上(三条)、府の区域内に住所を有する者は、実施機関に対して、公文書の公開を請求することができる旨の原則的規定が定められ(七条)、実施機関が公文書の公開をしないことができる非公開事由が八条の一号から六号において、公開をしてはならない非公開事由が九条の一号から三号において、それぞれ具体的に列挙され、更に、実施機関は、公文書に八条又は九条により公開をしないこととされる情報が記録されている部分がある場合において、その部分を容易に、かつ、公文書の公開請求の趣旨を損わない程度に分離できるときは、その部分を除いて当該公文書の公開をしなければならず(一〇条)、実施機関は、公文書の公開をしないとの決定を行った旨の通知をするときは、その決定の理由を付記した書面によりこれをしなければならないこととされている(一二条四項)。

これらの本件条例の各規定に照らすと、本件条例によれば、公開請求された文書が本件条例二条一項の公文書に該当する以上、被告はこれを原則として公開すべきであって、本件条例八条及び九条所定の各非公開事由があることは、実施機関である被告においてこれを具体的に主張して説明し、立証すべきものと解するのが相当である。

大阪府における本件条例の解釈運用基準(乙二)においても、その前文において、大阪府の保有する情報は公開を原則とすること、本件条例の制定の目的として、公文書の公開等を求める権利を明らかにすることにより、知る権利の保障と個人の尊厳の確保に資することが挙げられている。

(一)処分及び(二)処分において非公開とされた部分は、いずれも大阪府の機関が職務上作成して決済が終わり、実施機関が管理している文書の一部であることが明らかであり、本件条例二条一項一号所定の公文書に該当することは争いがないから、被告において、右部分に記載された情報につき本件条例八条及び九条所定の非公開事由についての主張・立証がない限り、被告はこれを公開すべきことになる。

三  そこで、まず、本件内申書、本件予定価格調書及び本件審査調書の作成の基礎となった大阪府の建設工事の指名競争入札の手続についてみると、前記争いのない事実に、証拠(甲一、六の三六及び三七、七、九、一二、一三の一ないし九、一五、一六、一八ないし二〇、二四、二六、二七、一〇六の一ないし一七、一〇七の一ないし三五、一〇八、一一三、一一四、二〇一ないし二〇五、乙一ないし一五、一〇一ないし一〇九の各一及び二、一一〇ないし一一七、二〇一、二〇二、二〇五の一及び二、証人梅原利弘、同神足隆雄、同升本匡央及び同椎名恒の各証言)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められる。

1  大阪府においては、原則二年毎に、大阪府の建設工事の発注部局(農林水産部、土木部、建築部、企業局、水道部、教育委員会、府立大学、警察本部の八部局)が発注する建設工事に入札参加を希望する建設業者からの入札参加の資格審査の申請を受け付け、その資格審査を行っている。

2  資格審査の申請をする者は、予め、建設業法所定の経営事項審査(同法二七条の二三)を受けなければならず、そのうち経営状況の分析の申請については財団法人建設業情報管理センター大阪府支部に、経営規模等の申請については被告又は建設大臣へそれぞれすることになっている。同支部は、審査項目である①完成工事高経常利益率、②総資本経常利益率、③損益分岐点比率、④流動比率、⑤当座比率、⑥運転資本保有月数、⑦一人当たり完成工事高対数、⑧一人当たり付加価値対数、⑨一人当たり総資本対数、⑩固定比率、⑪自己資本比率、⑫固定負債比率について一定の基準に基づきそれぞれの評点を算出し、更に、算出した複数の評点から通達の定める算式により総合評点を求めて、経営状況の分析に関する審査を行う。被告又は建設大臣は、経営状況の分析結果に加えて、経営規模等の審査項目である①工事種類別年間平均完成工事高、②自己資本額、③職員数等について、同様に評点を算出して総合数値を算定して、経営規模の審査をし、これらの結果及びその他の審査項目の審査結果を総合し、経営事項審査総合数値(二二六四点満点)を算定し、この結果を申請者に通知する。

建設業者の間には、各建設業者からの取材に基づき、あるいは、職員数や営業年数、平均完工高等の基礎資料を基に独自に建設業者ごとの格付採点をした結果が掲載された「資料 建設業者便覧」等の公刊物が流布している。

3  被告は、右の経営事項審査結果の通知書が添付された資格審査の申請を受理し、入札資格の審査をする。

入札参加の資格審査は、経営規模や経営状況などの客観的事項についての審査と工事成績、地元要素、労働福祉の状況といった主観的事項についての審査に分けられ、客観的事項の審査については、前記の経営事項審査結果の総合数値(二二六四点満点)の二分の一の点数を客観的評点とし、その点数が九〇〇点を超えるときは九〇〇点を限度とする。主観的事項の審査については、大阪府においては、工事成績(発注八部局が発注し、入札の資格審査日の直前二年間に完成した工種ごとに、監督員と検査員の複数体制で建設工事の工事成績点の点数区分に対応して評点を算出する。)、地元要素(大阪府の区域内に主たる事務所を置く府内業者に対し、地元点としての評点を加算する。)、労働福祉の状況(健康保険、厚生年金保険、労働保険及び雇用保険のいずれかに加入するごとに福祉点として加算する。)の三項目に点数を付け、これを合計する方法で一〇〇点を満点として、算出する。そして、客観的評点と主観的評点を合計し、格付の評価の基となる総合評点(一〇〇〇点満点)を算定する。

大阪府においては、この評点の評価対象や配点方法、等級の設け方等について、建設業者の有するノウハウ、創造力、仕事の丁寧さ、アフターサービスなどの要素は、主観的評点算出の対象としない。

4  土木一式工事や建築一式工事等のような特定の種類の工事については、被告は、この総合評点の点数に応じて、工事種別ごとに等級を付して各建設業者ごとの格付を行い、それは、建設工事入札資格承認通知書に記載されて申請した建設業者に通知される。

格付のある建設工事については、建設業者は、原則として、その等級に対応する工事金額の範囲内の工事についてのみ、大阪府から指名を受けて入札に参加することができる。大阪府の平成六年五月における建築一式工事の等級、評点、発注工事金額の関係は、総合評点一〇〇〇点から六五一点までの業者が「AA」に格付けされて八億円以上の工事を受注することができ、六五〇点から四三一点までの業者が「A」に格付けされて六億円以上一二億円未満の工事を、四三〇点から二九一点までの業者が「B1」に格付けされて三億五〇〇〇万円以上六億円未満の工事を、二九〇点から二二六点までの業者が「B2」に格付けされて一億八〇〇〇万円以上三億五〇〇〇万円未満の工事を、二二五点から一九六点までの業者が「C1」に格付けされて一億円以上一億八〇〇〇万円未満の工事を、一九五点から一七一点までの業者が「C2」に格付けされて五〇〇〇万円以上一億円未満の工事を、一七〇点から一三六点までの業者が「D」に格付けされて五〇〇〇万円未満の工事を、一三五点以下の業者が「E」に格付けされて一五〇〇万円未満の工事を、それぞれ受注することができることとなる。

なお、例外的には、ある等級に格付けされた建設業者が、その等級より一ランク上の等級に相当する金額の工事について、指名を受けることもある。

5  入札参加資格者審査調書は、この入札参加資格の認定結果をとりまとめたもので、大阪府建築部において作成され、建設工事入札参加資格を受けた建設業者について、五〇音順に建設業者の建設業法三条の許可区分(知事の許可か建設大臣の許可かの区分)、企業規模、業種、評点、等級、総合数値、管理技術者数、資本金、営業年数、登録年、職員数、技術者数等の概要が記載されている。このうち、「総合数値」の部分には経営事項審査の総合数値が、「評点」の部分には総合評点が、「等級」の部分にはAA、B1等の等級が、それぞれ記載されている。ただし、本件審査調書に記録されている二八種類の建設工事の業者のうち、等級が付されているのは、土木一式工事、建設一式工事、電気工事、管工事、舗装工事の五種類に携わる業者である。

6  次に、個々の指名競争入札に当たっては、入札参加資格者の中から被告が当該入札に参加させようとする者を指名するため、指名審査会が設置されており、その決議を経て、指名業者が選定される。

7  指名審査会の内申書は、右会議の審議資料とするため、当該工事を所管する課長が、指名基準を勘案し、指名競争入札参加資格をもつ建設業者の中から、その工事に応じた建設業者を選定し、当該工事やその建設業者に関する事項を記載した文書である。

本件内申書は、本件工事の指名競争入札に際し、作成された指名審査会の内申書であり、本件工事はいずれも共同企業体方式による入札が行われたもので、各工事ごとに、共同企業体の構成員となる建設業者の指名のための第一次指名審査会と共同企業体の指名審査を行なう第二次指名審査会の各内申書がある。このうち、第一次指名審査会に係る分の「等級」欄の「等級」及び「評点」の部分、第二次指名審査会に係る分の「ランク」の欄は、いずれも既に作成済みの入札参加資格者審査調書に記載されているその建設業者の「等級」「評点」がそのまま転記されたものである。

8  予定価格調書は、指名競争入札の実施に先立ち、発注部局により作成されるもので、工事名称、入札年月日のほか、工事予定価格、最低制限価格及び設計金額が記載される。

(一)  設計金額は、公共工事の標準的な施工方法を基準として、標準的な施工能力を有する建設業者が、それぞれの現場条件に応じて、当該工事を行った場合に、最も妥当性があると考えられる経費を積算した合計金額で、建設省の「土木請負工事工事費積算要領」に基づき、建設省が公表する「土木工事工事費積算基準」、「共通仮設費算定基準」、「土木工事標準歩掛」や、発注工事ごとに被告が公表する設計書(工事単価を伏せて工種ごとの工事数量が明示されている。)及び工種ごとの工事単価に基づいて積算される。右の工事単価は公表されない。

(二)  工事予定価格は、地方自治法二三四条三項所定の「予定価格」であり、設計金額を基に、工種、施工条件、工事の難易度、工期等当該工事の内容を配慮して決定され、この金額が、入札の際の落札上限額となる。

最低制限価格は、入札の際の落札下限額となるもので、建設業者間の過当競争や工事原価も確保できないような低額の契約の締結によって疎漏工事が行われることを未然に防止するため、工事の発注者が当該工事の契約の内容に適合した履行を確保するため特に必要があると認めた場合に、設定される。

(三)  予定価格調書は、封筒に入れて封印され、この封書は、入札期日までの間、厳封されたま企業管理課総務係契約班において厳重に保管される。関係職員であっても、入札期日前にその内容を知ることはできない。

(四)  本件予定価格調書は、昭和六二年度から平成二年度までの間に企業局が実施した本件工事に係る各指名競争入札に際して、企業局が作成したものである。

9  入札が実施された結果、予定価格以下であって最低制限価格以上の金額で入札した者のうち最低の金額で入札した者がある場合、この者が落札者と確定するが、このような落札者がないときは、最低入札金額だけが発表され、直に再度の入札を行なう。この場合、初度の入札において最低制限価格未満の入札をした者は失格とし、再度入札には参加させず、入札会場から退室させる。また、再度入札においては、初度の入札における最低入札金額以上の金額による入札は無効となる。再度入札においても、落札者が確定しないときは、さらに、三度目の入札を行う。

10  入札終了後、入札状況調書が作成され、府民一般の閲覧に供せられ、落札金額、落札業者は公表されるが、最低制限価格未満の入札をした者の入札金額は、入札状況調書にも記載されない。

11  建設業者の中には、前記のとおり、設計金額の基となる公表済みの資料である建物物価、積算資料及び積算歩掛り等の各種の資料等を基に、建設工事の工事予定価格を探索しようとする者もある。

四  そこで、前記三で認定した事実関係の下で、本件内申書、本件予定価格調書及び本件審査調書中の本件取消訴訟の対象である非公開とされた部分の情報について、被告主張の本件条例所定の非公開事由があるかどうかについて検討する。

1  本件内申書の等級・評点・ランクについて

右の等級及び評点は、入札参加の資格審査手続において作成された審査調書中の等級及び総合評点の記載が転記されたもので、右の等級及び総合評点は、各建設業者に対してされた経営事項審査の結果及び入札参加の資格審査による格付の結果である。したがって、本件内申書自体は、前記認定のとおり指名競争入札の参加者の指名をするための指名審査会の意思形成の資料になるものではあるが、この情報は、既に決定された経営事項審査及び格付についての情報であり、大阪府における意思形成過程の情報ではない。

そして、審査調書中の右の等級や総合評点の情報については、本件審査調書中の右の情報についての後記3の判断で説示するとおり、本件条例八条一号の非公開事由があるとは認められない。

また、右の等級及び評点を公開することによって、大阪府の建設工事の入札の事務やその他の事務において、格付の低い建設業者の協力を得るのが困難になり、自治体としての事務に著しい支障が生じるとの具体的な事情は、被告の主張自体においても不明というほかなく、本件全証拠によってもそのような事情は何ら認められない。したがって、右の情報について、本件条例八条四号、五号の事由があるともいえない。

2  本件予定価格調書について

本件予定価格調書に記載された情報は、工事名称、入札年月日、工事予定価格、最低制限価格及び設計金額の具体的表示であり、そのうち公表されていない情報は、工事予定価格、最低制限価格及び設計金額である。

このうち工事予定価格は、入札の際の最高限度となる価格であり、最低制限価格は、最低限度となる価格であり、設計金額はそれらの基になる金額であって、仮にこれらの情報のすべてが当該入札前に公表されて入札に参加する建設業者がこれらの具体的な金額まで知ることになると、建設業者間で、談合をして、本命である落札業者を決め、その上、更に各建設業者の入札価格を調整することによって工事予定価格を少し下回る高値でその本命の建設業者が落札することがより容易になるものといわざるを得ない。そうすると、国や地方自治体の公共工事の入札の際談合があった、或いはその疑惑があるとのニュースが跡を断たない現下の状況の下では(これは公知の事実である。)、これらの金額が入札前に公開されることによって、各建設業者間の公正で自由な競争が阻害され、結局、大阪府における当該入札の事務に支障を及ぼすおそれがあることは否定できないというべきである。また、当該入札の実施の後に工事予定価格、最低制限価格及び設計金額をすべて公開した場合においても、将来大阪府が実施する同種の工事の入札の際、その入札に参加する建設業者が右の情報を基に右入札の工事予定価格や最低制限価格を事前にある程度予測し、これを前提として談合しようとする動きに出ることも、その可能性が全くないとまではいえない。

しかしながら、本件予定価格調書は、昭和六二年から平成二年までに実施された過去の指名競争入札についてのもので、(一)処分の時点でこれを公開しても当該指名競争入札の事務自体に支障が生じることはあり得ない。また、当該入札の実施の後に工事予定価格、最低制限価格及び設計金額をすべて公開した場合(いわゆる事後公開)において、その後の同種の工事の入札の際、これに参加する建設業者が右の情報を基に右入札の工事予定価格や最低制限価格を事前に予測しようとしても、工事内容の差異もあり得るほか、その時点においては施工技術の進歩等により工事内容も多様化していることもあり得ること、経済情勢の変化もあり得ること等の情勢の変化もあり、入札に参加する建設業者の右の予測には一定の限界があると考えられる。特に、前記三の認定した事実関係によれば、建設業者の間ではこれらの情報が公開されていない現在においても、既に公表あるいは公刊されている建物物価、積算資料及び積算歩掛り等の各種の資料に基づいて、今後の入札の工事予定価格等を探索する動きがないではなく、右資料に加えて既に実施された入札の工事予定価格、最低制限価格及び設計金額をすべて公開した場合に、将来の入札の際の工事予定価格等の予測がどれほど容易になり、それによって大阪府における今後の建設工事の入札事務において具体的にどれほどの支障が生じるのかについては、結局、本件の全証拠によっても明かではないといわざるを得ない。

のみならず、入札が実施された後に右の工事予定価格等が公開される扱い(いわゆる事後公開)が定着すると、その後に実施される同種の工事の入札においても、それに参加する各建設業者は、その入札実施の後に各入札金額等の既に公開されている情報に加えて右の工事予定価格等も公開されることを前提に入札に参加しなければならなくなり、これらの情報の事後公表を定着させることは、結果的に、不正な談合を抑止することにも繋がると考えられる。

そうすると、本件予定価格調書に記載された情報を公開したとしても、大阪府におけるその後の同種の入札事務の目的が達成できなくなり、または右の事務の公正かつ適正な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるとまでは認められず、本件条例八条五号所定の事由は認められない。被告のこの点の主張は採用できない。

むしろ、工事予定価格、最低制限価格及び設計金額をすべて公開すれば、大阪府における建設工事の入札事務の手続過程がより一層透明化され、工事予定価格の設定自体が割高ではないかどうかが広く一般に検証あるいは批判することができ、大阪府におけるより合理的でより妥当な積算による工事予定価格の設定に資することになり、これは、大阪府における健全な財政事務の遂行上も望ましいことである。甲一一三によれば、政府も、平成九年一〇月ころ、これまで非公開としていた国の公共工事の入札の際の予定価格を近い将来公表し、更に、各地方自治体においてもこれに追随するように働きかけるとの方針を示したことが認められるところである。

3  本件審査調書中の総合評点・等級について

総合評点は、各建設業者についての経営事項審査の結果と大阪府において算定評価した地元要素や労働福祉状況の総合的な評価の結果であり、等級は、総合評点に基づいて大阪府が発注する工事の規模に応じて入札に参加できる建設業者の格付をしたもので、その内容は、いずれも、各建設業者の経営規模、経営状態、それに地元要素等の評価の結果であって、各建設業者の業務上の信用に関する情報であることは明かである。そして、これらの情報を公開すると、その内容いかんによっては、それが各建設業者の経営状態や工事施工能力等の重要な評価であるとされ、各建設業者の事業等の活動に影響を与えることも考えられる。また、建設業者の中には、自らの等級が公表されることを欲しない者も存在することが窺われる(証人梅原利弘の証言には同旨の部分がある。)。

しかしながら、右の情報の中には、建設業法二七条の二四第四項、二七条の七に基づいて指定された経営状況分析機関が秘密として保持しなければならない情報もなく、そのほか各建設業者の営業の秘密として法律上保護すべき情報があるとも認められない。むしろ、右の情報は、経営事項審査や総合評点の算定、それに格付が適正に行われ、そして経営事項審査や入札参加資格者の格付の制度が正しく理解される限りにおいては、基本的には、各建設業者の大阪府における合理的な根拠に基づく客観的な評価の一つとなるべきものであって、公正な競争秩序の維持の観点からも、各建設業者の経営状態や工事施工能力の評価の一つとして、各建設業者間ではもちろん、広く一般の住民の知り得るところとされるべき情報であるといえる。したがって、右の情報は、各建設業者にはその非公開を求める正当な利益はそもそもないというべきである。主観的評点の比率が高い建設業者について、右の情報が客観的な評価とするのに問題があり得るというのであれば、主観的評点と客観的評点の双方の公開が必要になることになるし、また、地元要素については、全国各地の地方自治体で同様の情報が広く公開されることによって、それによる誤解の可能性も解消するものと考えられる。のみならず、前記三冒頭掲記の各証拠によれば、建設業者便覧等の公刊物(甲一四、甲一〇五)に相当数の建設業者について取材あるいは各種資料からの予測による格付の評点が掲載され、建設業者の間では、その情報が既に流布されており、建設業者の格付は、公刊された資料等により事実上ほぼその概要が知り又は予測できる状態になっていることが認められ、このような状態の下で右の情報を公開したとしても、その影響は限られているともいえる。

そうすると、右の情報は、これを公開しても各建設業者の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められないというべきであり、本件条例八条一号所定の事由があるとする被告の主張は失当である。

総務庁行政監察局の調査によれば、等級については、既に幾つかの地方自治体で公開されており、建設省においても、平成一〇年から各建設業者の経営事項審査の結果を公表する方針を採っており、さらに、地方自治体がする入札参加の資格審査の公開も検討することとされている。また、等級や総合評点は、それが公開されることによりそれらが適正であるかどうかについて広く一般に検証あるいは批判することが可能になる。建設業者としては、工事の種類ごとに異なる評価を受けたり、他の地方自治体や国の機関からも同様に格付を受けて異なる評価を受けている場合もあり、更に、総合評点や等級が公開されることによって、自己と他者の等級等を比較することによって、公表された等級等に不服がある建設業者は、本件条例一七条、一八条に基づき、実施機関にその訂正を求めることも考えられ、そのようになれば、大阪府が発注する建設工事の入札手続がより一層透明になって経営事項審査や格付の適正化に資するものと考えられる。

五  以上のとおりであって、本件取消訴訟の対象である(一)処分及び(二)処分において非公開とされた文書の情報について、いずれも、被告が主張する本件条例所定の非公開事由は認められない。原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官八木良一 裁判官北川和郎 裁判官和田典子)

別紙<省略>

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